日産自動車九州インタビューその3│今の仕事のモチベーションとは?
日産自動車九州 製造部 塗装課 係長 出口浩司様、製造部 シニアスタッフ 野田安則様にお話を伺いました。
日本能率協会の平井希実、小高正義がインタビューします。
(以下敬称略、お役職はインタビュー当時)
今の仕事のモチベーションとは?
平井
今、お仕事をされるなかで何をモチベーションにしていますか。
出口
昔は現場の監督者である工長になりたいと考えていました。
自分は成績や給料のことをあまり考えたことがありません。
評価は自分ではなく、周囲の人がすることです。
給料はそれにくっついてくるものだと思っていたのです。
監督者になりたいと思っていても、いざ監督者になってしまうと、係長になりたいとは特に思いませんでした。
ただ、係長になるとそれはそれでやるべきことがたくさんあります。
楽しいことや面白いこともいっぱいです。責任はついてきますが、その一方でやりがいもある職種です。
係長になって良かったという思いは持っていますが、特になりたいと念願していたわけではなかったのです。
指導員からずっとやってきた中でいろいろな経験をしましたが、その中には自分にとって重たい仕事もあるわけです。
そんなとき、ずっと見てくれている上司もいますし、そういう人の支えや引き上げがあり、今の自分が存在するのだと感じています。
常に自分が成長する姿で恩返ししたい、へこたれる姿を見せられない、受けた仕事はきちんとやり遂げたいと思って仕事をしてきました。
モチベーションが何かといわれると、そんなところではないでしょうか。
野田
こちらから見ると、やりたいことは「人材育成」のように思える。
人を育てていくことに生きがいを感じているように見えるよ。
それがモチベーションになっているのかどうかは分からないけどね。
出口
生きがいといわれると、確かにそういう部分はあります。
自分もそういう感じで育てられてきましたからね。
平井
発表の中で『親父、お袋といわれるような組織』とおっしゃっていました。
『新たに配属された方がここに来て良かった』と言ってくれたとも。
このエピソードについても教えていただけますか?
出口
今まで何度かそういう経験をしたのです。
50歳を過ぎている組員に、面談のとき「初めて親父と呼べるような工長に出会えた気がする」とぼそっといわれたことがあります。
本当にうれしかったですよ。
樹脂塗装の時代には、知らない工程で苦労していると、「あんたがそこまでやるのだったら、俺がやるよ」と先輩にいわれたことも覚えています。
僕は新任で来ていました。
「こいつにこの仕事ができるのか」という目でその先輩は見ていたのでしょう。
そうやって力を貸してくれたのも、本当にうれしかったです。
人材育成を意識しているのではなく、そういうふうに助け合っている感じだと思うのです。
ただ、いろんな面でかかわっている人が育っていく姿というのは、ある意味生きがいといわれたら確かにそうなのでしょうね。
今後やってみたいと考えていることとは?
平井
今後やってみたいことは何かありますか。
出口
今は係長になってまだ1年も経っていませんから、よく分からないのが実情です。
先々を考えると、今の会社の中でも、人事など人材育成に携わっている部署があります。将来、そういうところへ進んだら、またそれはそれで楽しいような気がします。
平井
去年野田さんにお話をうかがった際、御社は人材育成に力を入れておられて、時間もかなり費やしていると聞きました。
野田
うちの教育はすごく手厚いと思います。
指導員から工長になるときなどは、関東に3週間も行きっぱなしです。
また教育内容も増えました。
出口
確かに増えました。
平井
それは新たに工長になる人が集合研修のような形で学ぶのですか。
野田
そうです。全工場から集まってやっています。
上期は全部で50人以上が横浜に集結しました。
ちょうど6月から行くのですが、九州から行くと3週間は帰ってこられません。
この教育が最も期間の長い教育となります。
3週間研修を受けたあと、戻ってきたら納期を決め、教育で学んだ事を活かし自職場実践活動として改善活動を行い報告します。
出口
それも仕組みの改善ですが、やはり人材育成でもあるのです。
野田
最後はそうだね。
平井
どれだけいいシステムを導入しても、それを使う人にやる気がないとなかなか進んでいかないものですよね。
出口
高齢になると動きが悪くなるとか、使いづらいとかよくいわれますが、ちょっと違うように思います。
高齢者でもゴルフや釣りが好きな人は、前の日が夜勤で寝てなくても朝に出かけています。
仕事も同じだと思います。
その仕事が好きで職場が嫌でなかったら、いろいろと大変なことがあっても多分、やっていけるはずです。
でも、仕事をしやすい環境を作るのは、やはり監督者ではないでしょうか。
監督者の思いなどいろいろなことが入って、その工程が作られていきます。
それがしっかりとできていれば、いくら年配で使えない人であったとしても、それなりに成長してくれ、やるべきことをやってくれるようになると思うのです。
設備や機械は最大出せても100%の能力が限界でしょう、人はやる気を出させることが出来れば100%以上の力を出すことが出来ます、そこが人材育成の面白いとこだと思います。
現場で最も大事なことは、監督者であれ係長であれ、みんなのモチベーションをどうやって引き上げていくかだと考えています。
それには我々が部下一人ひとりをしっかりとみて行くこと、個々人のビジョンを立て部下のレベル目線に合わせた仕事の与え方・仕掛けとフォロ-の実践を行っていくことが大切なのです、人が育てば結果は必ず付いて来るはずですから…
平井
お話をうかがい、出口さんの下についた人は幸せだと感じました。
熱意を持って仕事をし、こうなりたいと思える人の下で働けるのはすごく幸せですよ。
出口
僕がいつも思うのは周りから支えられるような人材になりたいということです。
僕も上司からいろいろと目をかけてもらいましたが、その人のために何かできることはないかといつも考えていました。
自分がそういうふうに思われたらいいですよね。
第一線監督者の集いで発表する人へのメッセージは?
平井
とても良いお話が聞けました。
ありがとうございます。
これから第一線監督者の集いで発表される方に向け、何かエールやメッセージがあれば教えてください。
出口
やはりあれだけの人がいる中で発表するのですから、最初にいわれたときは重いと感じるでしょう。
だけど、実際に発表してみると、資料を作る段階から自分の思いをしっかりと見直し、固めることができます。
それにあの場にいると、いろいろな人の話を聞けます。
そういう機会は滅多にあるものではないでしょう。
その中には、自分が持っている考えとちょっと違う意見の人もいます。
それを聴くことで自分の視野を広げることができます。
そのためにも少し大変ですが、やってみるべきです。
そういう機会が回ってきたのなら、自分のやってきたことをみんなに伝える場所と考えたらいいと思います。
平井
ありがとうございました。
出口
会社の代表とか考えると最初は重たいでしょうが、そんな気持ちで出かけたらいいのではないでしょうか。
平井
楽しんでいただけたら、事務局としてもうれしい限りです。
野田
良い勉強になると思います。
出口
本当にそうです。
野田
振り返りをすることで新たな気づきもあり、もう1回やってみようということが見つかるでしょう。
資料を一生懸命に作るのも勉強の1つです。
出口
緊張はしますけどね。
小高
出口さんが今年、もう1回発表するとしたら、去年の発表に何を盛り込みますか。
出口
入れるとしたら、今まさしく係長としてやっている仕事でしょう。
前回のようなビジョンカルテを今回も用意するのは難しいかもしれませんが、それなりに思いを込めて仕事をしていますので、実践課程の中身を盛り込めそうです。
野田
監督者も結構、部署を異動するから、そういう部分も深く話してあげたら良いかもしれません。
他の会社もきっと、短い年数で動いていると思います。
中には「なぜ俺だけこんなに変わるんだ」と考える人もいるから、そんな人にメリットを伝えてあげるのもいいのではないでしょうか。
出口
多分、みなさんも同じだと思いますが、自分も係長になったら、部下に1カ所だけ経験させるより、いろんな部署を経験させたいと考えました。
ただ、その点を詳しく話すとその人のためにならないような気もします。
要するに自分で感じ取ってほしいからです。
野田
今年から係長になる人は少なくとも3つの工程を経験させることになりました。
彼の発表の影響だと思います。
平井
多方面に大きな影響が出ているのですね。
出口
でも、やはり良いことだと思います。
本当に自分は恵まれているとあらためて感じます。
平井
ありがとうございました。
完