日産自動車九州その4|奉加帳の作製で気づいたこととは?
畑野
それに合わせて山下さんの接し方も変えていったわけでしょうか。
山下
そうです。監督者になってから、接し方を変えました。
というのも、あることがキッカケで自分の足りない部分に気づかされたのです。
私は4月に工長に任命されましたが、翌5月に私の組から定年退職者が出ました。
定年退職者が出るとその人の奉加帳を作り、工場の中の全員に「この人が定年退職します。何年入社で、こんな役職を経験し、今年の5月で定年になります」と知らせるのです。
工場の中には約4,000人もの従業員がいます。
18歳から約40年間も日産自動車で働いていると、いろいろな部署を経験し、応援に行くこともありますから、自分が知っている以上にたくさんの人と接していることになります。
その方達に向け退職をお知らせする意味で奉加帳を書くわけです。
例えば、「〇〇さんが3月31日をもって退職されます。1978年4月1日、日産自動車九州工場に地元採用され…」と書いていくのです。
私は定年退職する方と自分なりに仲が良くコミュニケーションをとっていたつもりでしたが、詳しく話を聞いていくうちに知らないことがたくさんあったのです。
趣味が何で休日にはどういう過ごし方をしているのかなど知らないことがたくさんありました。
よく知っているつもりでも本当の信頼関係を築けていなかったのではないかと、これまでの自分を振り返りました。
八尋
本人ではなく、上司が書くのでしょうか。
山下
そうなんです。
仕事でこんな貢献をし、こんな部署、役職を経験したほか、趣味は釣りでなどA4用紙の半分ぐらいに書き、写真と発起人、上司の名前をつけて、それを九州工場だけでなく、全工場に回します。
もっと早くその方の情報を知っていれば、より深い会話ができていたでしょう。
釣りの話などその人は全くしませんでしたが、暇なときには釣竿を持ってよく近所の海岸へ出かけていたそうです。
車も好きで、長年お金を貯めて歴代のGT-Rに乗っていました。
休日は朝早く起き、高速をぐるぐる回っているなど、調べていくと知らない話がどんどん出てきました。
ただただびっくりするばかりです。
こういうことを知っていればもっと会話が広がったはずですし、何かを話すときのきっかけの1つになったでしょう。
畑野
第一線監督者になって1カ月で仲がいいと思っていた人のことを全然知らないと感じ、それが他のメンバーに対しても同じだと気づいたわけですね。
それが夢実現シートを書くことにつながったのですか。
山下
そうです。
最初に趣味などを面談のなかで聞いていましたが、もう少し詳しく知りたいと思ったことをきっかけに、夢実現シートに書くようになりました。
先ほど、その人にとって何が大事かを文字で書いてもらうと言いましたが、
夢実現シートには組織と個人のニーズをつなげる役割があるといいました。
もうひとつは、その大事なことを実現させるために、必要な休暇はみんなでその人を率先して休ませてあげたいという思いも込められているのです。
仕事はプライベートが充実していないとなかなか充実しません。
逆に、仕事が充実しないとプライベートが充実しないところもあります。
それで、家庭を大事にしている人にはみんなで助けて結婚記念日に休ませてあげよう、ソフトバンクホークスのファンなら、チケットが取れた試合には行かせてあげようと考えました。
だから、夢実現シートには自分が大切にしていることとみんなにいいたいことを文字で表現してもらいます。